あらずんばあらず。道衍の忌むところとなる、卓惟恭《たくいきょう》もまた雄傑の士というべし。
 道衍の卓敬に対する、衍の詩句を仮《か》りて之を評すれば、道衍|量《りょう》何ぞ隘《せま》きやと云う可きなり。然《しか》るに道衍の方正学《ほうせいがく》に対するは則《すなわ》ち大《おおい》に異なり。方正学の燕王に於《お》けるは、実に相《あい》容《い》れざるものあり。燕王の師を興すや、君側の小人を掃《はら》わんとするを名として、其の目《もく》して以て事を構え親《しん》を破り、天下を誤るとなせる者は、斉黄練方《せいこうれんほう》の四人なりき。斉は斉泰《せいたい》なり、黄は黄子澄《こうしちょう》なり、練は練子寧《れんしねい》なり、而《しか》して方は即ち方正学《ほうせいがく》なり。燕王にして功の成るや、もとより此《この》四人を得て甘心《かんしん》せんとす。道衍は王の心腹《しんぷく》なり、初《はじめ》よりこれを知らざるにあらず。然《しか》るに燕王の北平《ほくへい》を発するに当り、道衍これを郊《こう》に送り、跪《ひざまず》いて密《ひそか》に啓《もう》して曰《いわ》く、臣願わくは託する所有らんと。王何ぞと問う
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