、寒山子《かんざんし》の如くに、蕭散閑曠《しょうさんかんこう》、塵表《じんぴょう》に逍遙《しょうよう》して、其身を遺《わす》るゝを得《う》可きや否《あらず》や、疑う可き也。※[#「くさかんむり/(止+頁+巳)/夂」、第3水準1−15−72]龍《きりゅう》高位に在りは建文帝をいう。山霊蔵するを容《ゆる》さず以下数句、燕王《えんおう》に召出《めしいだ》されしをいう。神龍氷湫より起るの句は、燕王|崛起《くっき》の事をいう。道《い》い得て佳《か》なり。愛に因って醜を知らずの句は、知己の恩に感じて吾身《わがみ》を世に徇《とな》うるを言えるもの、亦《また》善《よ》く標置《ひょうち》すというべし。


 道衍《どうえん》の一生を考うるに、其《そ》の燕《えん》を幇《たす》けて簒《さん》を成さしめし所以《ゆえん》のもの、栄名厚利の為《ため》にあらざるが如《ごと》し。而《しか》も名利《めいり》の為にせずんば、何を苦《くるし》んでか、紅血を民人に流さしめて、白帽を藩王に戴《いただ》かしめしぞ。道衍と建文帝《けんぶんてい》と、深仇《しんきゅう》宿怨《しゅくえん》あるにあらず、道衍と、燕王と大恩至交あるにもあら
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