だしてたれかそのよしをしらん》。
|奸臣得[#レ]計兮謀[#レ]国用[#レ]猶《かんしんはかりごとをえてくにをはかるにゆうをもちゆ》。
|忠臣発[#レ]憤兮血涙交流《ちゅうしんいきどおりをはっしてけつるいこもごもながる》。
|以[#レ]此殉[#レ]君兮抑又何求《ここをもってきみにじゅんずそもそもまたなにをかもとめん》。
|嗚呼哀哉兮庶不[#二]我尤[#一]《あああわれなるかなこいねがわくはわれをとがめざれ》。
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 廖※[#「金+庸」、第3水準1−93−36]《りょうよう》廖銘《りょうめい》は孝孺の遺骸《いがい》を拾いて聚宝門外《しゅうほうもんがい》の山上に葬りしが、二人も亦《また》収められて戮せられ、同じ門人|林嘉猷《りんかゆう》は、かつて燕王父子の間に反間の計《はかりごと》を為《な》したるもの、此《これ》亦戮せられぬ。
 方氏一族|是《かく》の如くにして殆《ほとん》ど絶えしが、孝孺の幼子|徳宗《とくそう》、時に甫《はじ》めて九歳、寧海県《ねいかいけん》の典史《てんし》魏公沢《ぎこうたく》の護匿《ごとく》するところとなりて死せざるを得、後《のち》孝孺の門人|兪公允《ゆこういん》の養うところとなり、遂《つい》に兪氏《ゆし》を冒《おか》して、子孫|繁衍《はんえん》し、万暦《ばんれき》三十七年には二百|余丁《よてい》となりしこと、松江府《しょうこうふ》の儒学の申文《しんぶん》に見え、復姓を許されて、方氏また栄ゆるに至れり。廖氏[#「廖氏」は底本では「※[#「やまいだれ+謬のつくり」、第4水準2−81−69]氏」]二子及び門人|王※[#「禾+余」、UCS−7A0C、395−2]《おうじょ》等《ら》拾骸《しゅうがい》の功また空《むな》しからず、万暦に至って墓碑|祠堂《しどう》成り、祭田《さいでん》及び嘯風亭《しょうふうてい》等備わり、松江《しょうこう》に求忠書院《きゅうちゅうしょいん》成るに及べり。世に在る正学先生の如くにして、豈《あに》後無く祠無くして泯然《びんぜん》として滅せんや。
 節《せつ》に死し族を夷《い》せらるゝの事、もと悲壮なり。是《ここ》を以て後の正学先生の墓を過《よ》ぎる者、愴然《そうぜん》として感じ、※[#「さんずい+玄」、第3水準1−86−62]然《げんぜん》として泣かざる能《あた》わず。乃《すなわ》ち祭弔《さいちょう》慷慨《こうがい》の詩、累篇《るいへん》積章《せきしょう》して甚だ多きを致す。衛承芳《えいしょうほう》が古風一首、中《うち》に句あり、曰く、

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古来 馬を叩《たた》く者、
采薇《さいび》 逸民を称す。
明《みん》の徳 ※[#「言+巨」、第3水準1−92−4]《なん》ぞ周《しゅう》に遜《ゆず》らん。
乃《すなわ》ち其の仁を成す無からんや。
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と。劉秉忠《りゅうへいちゅう》を慕うの人|道衍《どうえん》は其の功を成して秉忠の如くなるを得《え》、伯夷《はくい》を慕うの人|方希直《ほうきちょく》は其の節を成して伯夷に比せらるゝに至る。王思任《おうしじん》二律の一に句あり、曰く、

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十族 魂《たま》の 暗き月に依《よ》る有り、
九原《きゅうげん》 愧《はじ》の 青灯に付する無し。
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と、李維※[#「木+貞」、第3水準1−85−88]《りいてい》五律六首の中《うち》に句あり、曰く、

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国破れて 心 仍《なお》在《あ》り、
身|危《あやう》ふして 舌 尚《なお》存す。
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又句あり、曰く、

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気は壮《さかん》なり 河山《かざん》の色、
神《しん》は留《とど》まる 宇宙の身《み》。
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 燕王《えんおう》今は燕王にあらず、儼《げん》として九五《きゅうご》の位《くらい》に在り、明年を以《もっ》て改めて永楽《えいらく》元年と為《な》さんとす。而《しこう》して建文皇帝は如何《いかん》。燕王の言に曰く、予《よ》始め難に遘《あ》う、已《や》むを得ずして兵を以て禍《わざわい》を救い、誓って奸悪《かんあく》を除き、宗社を安んじ、周公《しゅうこう》の勲を庶幾《しょき》せんとす。意《おも》わざりき少主予が心を亮《まこと》とせず、みずから天に絶てりと。建文皇帝果して崩ぜりや否や。明史《みんし》には記す、帝終る所を知らずと。又記す、或《あるい》は云《い》う帝|地道《ちどう》より出《い》で亡《に》ぐと。又記す、※[#「さんずい+眞」、第3水準1−87−1]黔《てんきん》巴蜀《ばしょく》の間《かん》、相《あい》伝《つた》う帝の僧たる時の往来の跡ありと。これ言《ことば》を二三にするものなり。帝果して火に赴《おもむ》いて死せるか
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