く、
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須《すべか》らく知るべし 九仭《きゅうじん》の山も、
功 或《あるい》は 一|簣《き》に少《か》くるを。
学は 貴ぶ 日に随《したが》つて新《あらた》なるを、
慎んで 中道に廃する勿《なか》れ。
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其十に曰く、
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羣経《ぐんけい》 明訓《めいくん》 耿《こう》たり、
白日 青天に麗《かか》る。
苟《いやしく》も徒《ただ》に 文辞に溺《おぼ》れなば、
蛍※[#「火+爵」、UCS−721D、370−6]《けいしゃく》 妍《けん》を争はんと欲するなり。
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其十一に曰く、
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姫《き》も 孔《こう》も 亦|何人《なんぴと》ぞや、
顔面 了《つい》に異《こと》ならじ。
肯《あえ》て 盆※[#「央/皿」、第3水準1−88−73]《ぼんおう》の中《うち》に墮《だ》せんや、
当《まさ》に 瑚※[#「王+連」、第3水準1−88−24]《これん》の器《き》となるべし。
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其終章に曰く、
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明年 二三月、
羅山《らざん》 花 正《まさ》に開かん。
高きに登りて 日に盻望《べんぼう》し、
子《し》が能《よ》く 重ねて来《きた》るを遅《ま》たむ。
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其《その》才を称《しょう》し、其学を勧め、其《そ》の流れて文辞の人とならんことを戒め、其の奮《ふる》って聖賢の域に至らんことを求め、他日|復《また》再び大道を論ぜんことを欲す。潜渓《せんけい》が孝孺に対する、称許《しょうきょ》も甚だ至り、親切も深く徹するを見るに足るものあり。嗚呼《ああ》、老先生、孰《たれ》か好学生を愛せざらん、好学生、孰《たれ》か老先生を慕わざらん。孝孺は其翌年|丁巳《ていし》、経《けい》を執って浦陽《ほよう》に潜渓に就《つ》きぬ。従学四年、業|大《おおい》に進んで、潜渓門下の知名の英俊、皆其の下《しも》に出で、先輩|胡翰《こかん》も蘇伯衡《そはくこう》も亦《また》自《みずか》ら如《し》かずと謂《い》うに至れり。洪武十三年の秋、孝孺が帰省するに及び、潜渓が之《これ》を送る五十四|韻《いん》の長詩あり。其《その》引《いん》の中《うち》に記して曰く、細《つまび》らかに其の進修の功を占《と》うに、日々に異《こと》なるありて、月々に同じからず、僅《わずか》に四春秋を越ゆるのみにして而して英発光著《えいはつこうちょ》や斯《かく》の如し、後《のち》四春秋ならしめば、則《すなわ》ち其の至るところ又|如何《いか》なるを知らず、近代を以て之を言えば、欧陽少卿《おうようしょうけい》、蘇長公《そちょうこう》の輩《はい》は、姑《しば》らく置きて論ぜず、自余の諸子、之と文芸の場《じょう》に角逐《かくちく》せば、孰《たれ》か後となり孰《いずれ》か先となるを知らざる也。今|此《この》説を為《な》す、人必ず予の過情を疑わんも、後二十余年にして当《まさ》に其の知言にして、生《せい》に許す者の過《か》に非《あら》ざるを信ずべき也。然《しか》りと雖《いえど》も予の生に許すところの者、寧《なん》ぞ独り文のみならんやと。又曰く、予深く其の去るを惜《おし》み、為《ため》に是《この》詩を賦《ふ》す、既に其の素有の善を揚げ、復《また》勗《つと》むるに遠大の業を以てすと。潜渓の孝孺を愛重し奨励すること、至れり尽せりというべし。其詩や辞《ことば》を行《や》る自在《じざい》にして、意を立つる荘重、孝孺に期するに大成を以てし、必ず経世済民の真儒とならんことを欲す。章末に句有り、曰く、
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生《せい》は乃《すなわ》ち 周《しゅう》の容刀《たまのさや》。
生は乃ち 魯《ろ》の※[#「王+與」、第3水準1−88−33]※[#「王+番」、第4水準2−81−1]《よきたま》。
道|真《しん》なれば 器《き》乃ち貴し、
爰《なん》ぞ須《もち》ゐん 空言を用ゐるを。
孳々《じじ》として 務めて践形《せんけい》し、
負《そむ》く勿《なか》れ 七尺の身に。
敬義 以《もっ》て衣《い》と為《な》し、
忠信 以て冠《かん》と為し、
慈仁 以て佩《はい》と為し、
廉知《れんち》 以て※[#「般/革」、UCS−97B6、374−5]《かわおび》と為し、
特《ひと》り立つて 千古を睨《にら》まば、
万象 昭《あき》らかにして昏《くら》き無からむ。
此《この》意《こころ》 竟《つい》に誰《たれ》か知らん、
爾《なんじ》が為《ため》に 言《ことば》諄諄《じゅんじゅん》たり。
徒《いたずら》に 強《しいて》聒《ものい》ふと謂《おも》ふ勿《なか》れ、
一一 宜《よろ》しく紳《しん》に書《しょ》すべし。
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孝孺|後《のち》に至り
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