《ばほ》六万を帥《ひき》いて之を護《まも》り、糧を負うものをして中《うち》に居《お》らしむ。燕王壮士万人を分ちて敵の援兵を遮《さえぎ》らしめ、子|高煦《こうこう》をして兵を林間に伏せ、敵戦いて疲れなば出《い》でゝ撃つべしと命じ、躬《み》ずから師を率いて逆《むか》え戦い、騎兵を両翼と為《な》す。平安軍を引いて突至し、燕兵千余を殺しゝも、王|歩軍《ほぐん》を麾《さしまね》いて縦撃《しょうげき》し、其《その》陣を横貫し、断って二となしゝかば、南軍|遂《つい》に乱れたり。何福等|此《これ》を見て安と合撃し、燕兵数千を殺して之《これ》を却《しりぞ》けしが、高煦は南軍の罷《つか》れたるを見、林間より突出し、新鋭の勢をもて打撃を加え、王は兵を還《かえ》して掩《おお》い撃ちたり。是《ここ》に於《おい》て南軍|大《おおい》に敗れ、殺傷万余人、馬三千余匹を喪《うしな》い、糧餉《りょうしょう》尽《ことごと》く燕の師に獲《え》らる。福等は余衆を率いて営に入り、塁門を塞《ふさ》ぎて堅守しけるが、福|此《この》夜《よ》令を下して、明旦《めいたん》砲声三たびするを聞かば、囲《かこみ》を突いて出で、糧に淮河《わいか》に就くべし、と示したり。然《しか》るに此《これ》も亦《また》天か命《めい》か、其《その》翌日燕軍|霊壁《れいへき》の営を攻むるに当って、燕兵偶然三たび砲を放ったり。南軍誤って此《これ》を我《わが》砲となし、争って急に門に趨《おもむ》きしが、元より我が号砲ならざれば、門は塞《ふさ》がりたり。前者は出づることを得ず、後者は急に出でんとす。営中|紛擾《ふんじょう》し、人馬|滾転《こんてん》す。燕兵急に之を撃って、遂に営を破り、衝撃と包囲と共に敏捷《びんしょう》を極む。南軍こゝに至って大敗収む可《べ》からず。宗垣《そうえん》、陳性善《ちんせいぜん》、彭与明《ほうよめい》は死し、何福は遁《のが》れ走り、陳暉《ちんき》、平安《へいあん》、馬溥《ばふ》、徐真《じょしん》、孫晟《そんせい》、王貴《おうき》等、皆|執《とら》えらる。平安の俘《とりこ》となるや、燕の軍中歓呼して地を動かす。曰く、吾等《われら》此《これ》より安きを獲《え》んと。争って安《あん》を殺さんことを請う。安が数々《しばしば》燕兵を破り、驍将《ぎょうしょう》を斬《き》る数人なりしを以《もっ》てなり。燕王其の材勇を惜みて許さず。安に問いて曰く、※[#「さんずい+肥」、第3水準1−86−85]河《ひか》の戦《たたかい》、公の馬|躓《つまず》かずんば、何以《いか》に我を遇せしぞと。安の曰く、殿下を刺すこと、朽《くちき》を拉《とりひし》ぐが如くならんのみと。王太息して曰く、高皇帝、好《よ》く壮士を養いたまえりと。勇卒を選みて、安を北平に送り、世子をして善《よ》く之を視《み》せしむ。安|後《のち》永楽七年に至りて自殺す。安等を喪《うしな》いてより、南軍|大《おおい》に衰う。黄子澄《こうしちょう》、霊壁《れいへき》の敗を聞き、胸を撫《ぶ》して大慟《たいどう》して曰く、大事去る、吾輩《わがはい》万死、国を誤るの罪を贖《つぐな》うに足らずと。
五月、燕兵|泗州《ししゅう》に至る。守将|周景初《しゅうけいしょ》降《くだ》る。燕の師進んで淮《わい》に至る。盛庸《せいよう》防ぐ能《あた》わず、戦艦皆燕の獲《う》るところとなり、※[#「目+干」、第3水準1−88−76]※[#「目+台」、第3水準1−88−79]《くい》陥《おとしい》れらる。燕王諸将の策を排して、直《ただち》に揚州《ようしゅう》に趨《おもむ》く。揚州の守将|王礼《おうれい》と弟|宗《そう》と、監察御史《かんさつぎょし》王彬《おうひん》を縛して門を開いて降《くだ》る。高郵《こうゆう》、通泰《つうたい》、儀真《ぎしん》の諸城、亦《また》皆降り、北軍の艦船江上に往来し、旗鼓《きこ》天を蔽《おお》うに至る。朝廷大臣、自ら全うするの計を為《な》して、復《また》立って争わんとする者無し。方孝孺《ほうこうじゅ》、地を割《さ》きて燕に与え、敵の師を緩《ゆる》うして、東南の募兵の至るを俟《ま》たんとす。乃《すなわ》ち慶城《けいじょう》郡主《ぐんしゅ》を遣《や》りて和を議せしむ。郡主は燕王の従姉《じゅうし》なり。燕王|聴《き》かずして曰く、皇考の分ちたまえる吾《わが》地《ち》も且《かつ》保つ能《あた》わざらんとせり、何ぞ更に地を割《さ》くを望まん、たゞ奸臣《かんしん》を得るの後、孝陵《こうりょう》に謁《えっ》せんと。六月、燕師|浦子口《ほしこう》に至る。盛庸等之を破る。帝|都督《ととく》僉事《せんじ》陳※[#「王+宣」、第3水準1−88−14]《ちんせん》を遣りて舟師《しゅうし》を率いて庸を援《たす》けしむるに、※[#「王+宣」、第3水準1−88−14]却《かえ》って燕に
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