運命は切り開くもの
幸田露伴
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)然《さ》する
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)一※[#二の字点、1−2−22]
[#(…)]:訓点送り仮名
(例)赤[#(ン)]坊
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\
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此処に赤[#(ン)]坊が生れたと仮定します。其の赤[#(ン)]坊が華族の家の何不足無いところに生れたとします。然《さ》する時は此の赤[#(ン)]坊は自然に比較的幸福であります。又食ふや食はずの貧乏の家で、父たる者は何処かへ漂浪して終《しま》つて居るやうな場合の時、たゞ一人の淋しい生活をして居る婦人から生れたと致します。然る時はこの赤[#(ン)]坊は自然に比較的不幸福であります。善事をした訳でも悪事をしたわけでも無くて、貴家に生れると窮乏の家に生れるとで其の赤[#(ン)]坊の運命は大なる差があります。この大なる差を赤[#(ン)]坊のせゐにするのは不道理でして、これは前定的運命を其赤[#(ン)]坊が負うて居るのです。また同じ赤[#(ン)]坊でも器量良く生れるのも、器量悪く生れるのもあります。誰も美しく生れたいと思つて生れたものも無く、醜く生れたいと思つたものも無い、天然自然に親にあやかり、又は先祖にあやかり、他の者にあやかつて生れるだけの事ですが、美しく生れたものは其の美しく生れたために、醜く生れたものとは自然に異つた運命を有する訳になります。ですから是は運命前定にちがひ有りません。
鄭伯のやうに生れ方が普通で無かつたために、奇妙な運命に絡まれた人もあります。鄭伯は寤生と云つて、(母の眠つてゐた間に生れた、即ち眠り産であつたといふ説と、逆さ子で難産であつたといふ説と二説ありますが)兎に角に母の気持を悪くした生れ方をした人ですが、其は勿論其の嬰児が特《わざ》と然様した訳でも何でも有りません。ところが母は其の気持の悪かつたために、嫡子で有るに関らずこれに対して愛が薄くなるのを免れませんでした。そして其為に後から生れた弟の方を愛して、弟の方へ国を譲りたいやうな意《こゝろ》が母に起りました。そこで大変な騒動が起り、干戈を動かすやうな事が出来た事が古い
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