順《したが》はむには山にもせよ野にせよ里|距《はな》れたる地《ところ》へ棄つべくなりぬ。されども元来《もとより》孝心深き大臣の、如何《いか》で然《さ》る酷《むご》きことをなし得べき。事|露《あら》はれて国法に背《そむ》きたる罪を問はれなばそれまでなりと、深く地を掘りて密室をその中《うち》に造り設け、表面《うわべ》は那処《いずく》へか棄てたるやうにもてなして父をば其室《そこ》に忍ばせ置き、なほ孝養を尽しける。
時にたまたま天の神ありて突然《にわか》に棄老の王宮に降《くだ》り、国王ならびに諸臣に対《むか》ひて、手に持てる二《ふたつ》の蛇《へび》を殿上に置き、見よ見よ汝《なんじ》ら、汝らこの蛇のいづれか雄《お》にしていづれか雌《め》なるを別ち得るや、別ち得ばよし、別ち得ずんば国王よく聞け、汝を亡ぼし、汝の国をも我が神力《じんりき》もて滅すべし、七日《なぬか》の間にこの棄老をば殄《ほろ》ぼすべきぞ、と厳然として誥《つ》げければ、王は大きに驚き畏《おそ》れ、群臣と共に頭《こうべ》をあつめて答弁《こたえ》をなさんと議《はか》れども、誰《たれ》とて蛇の雌雄をば見定むべくもあらぬままただ当惑するばか
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