取りしに、頭はまた新《あらた》に自然《おのず》と生じ、また截り取ればまた生じぬ。手を截り去れば手また生じ、脚《あし》を截り去れば脚また生じ、金の頭金の手金の脚家|充満《いっぱい》となりて、爛々燦々《らんらんさんさん》と輝きわたりければ、この事王の耳に入りしが、仔細《しさい》を問ひ玉ふに及びて、これ善行の報《むくい》なりと知れ、福人《ふくじん》なりとて売薪者《たきぎうり》を急に一聚落《ひとむら》の長《おさ》に封ぜられしとぞ。眼前《めのまえ》には利ありとも不善によりて保ちたる利は終《つい》に保ちがたく、眼前には福を獲ずとも善心によりて生ずる福は終に大きなるものなり。

 むかしむかし棄老国と号《よ》ばれたる国ありて、其国《そこ》に住めるものは、自己《おの》が父母《ちちはは》の老い衰へて物の役にも立たずなれば、老人《としより》は国の費えなりとて遠き山の奥野の末なんどに駆り棄《す》つるを恒例《つね》とし、また一国の常法《おきて》となしゐけるが、ここに一人の孝心深き大臣ありけり。日頃やさしく父に事《つか》へて孝養怠りなかりしが、月日の経《た》つは是非なきことにてその父やうやく老いにければ、国法に
前へ 次へ
全15ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング