つま》を迎へ遣《や》りしに、この婦心狭くして良《よ》からぬものなりしゆゑ夫に対《むか》ひて、汝《おんみ》はあたかも奴隷《しもべ》のやうなり、金銀用度も皆兄まかせにて我が所有《もの》といふものもなく、唯《ただ》衣《き》ることと食ふこととに不足なさざるばかりなれば奴隷といふても宜《よ》かるべし、汝|如何《いか》ほど働きたりとて唯この家を富ますのみにて汝の所有《もの》の殖《ふ》ゆるにもあらねば、まことに以《もっ》て楽み薄し、と賢顔《かしこがお》に説きければ、弟はこれより分居の心を生じて、兄に財産《しんだい》を分ちくれむことを求めける。兄は、亡き父上の御遺言をも忘れて汝《そなた》は分居せむとや、さても分別違ひのことを能くも汝はいひ得るよ、と度々《たびたび》弟を誡め諭して敢《あえ》て弟のいふところを許さざりしが、弟の堅く分居せんといひ張りて已《や》まぬに打負けて、遂《つい》に一切の財産《しんだい》を正半分《まふたつ》にし、その一方を弟に与へぬ。
弟夫婦は年少《としわか》きまま無益《むやく》の奢侈《おごり》に財を費《ついや》し、幾時《いくばく》も経ざるに貧しくなりて、兄の許《もと》に合力《ごうり
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