し玉《たま》ふもあるまま、今また一条の物語りをここに載すべし。印度は諸子が父上母上の頃には天竺《てんじく》と呼びたる最早《いとはや》くより開け進みし国にて、今日《こんにち》よりして評するも世界の文明の母ともいふべきところなれば、従つて趣味《おもむき》ある古話にも富みたり、御望みならむには随分諸子のために珍奇なる話を取り出《いだ》して一年や二年の間はこの紙上に掲げん。さてこの号には、利※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]《りた》、阿利※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]《ありた》兄弟の譚《はなし》を載すべし。
むかしむかし、一人《ひとり》の長者《ちょうじゃ》ありて二人《ふたり》の子を有《も》てり。兄を利※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]といひ弟《おとと》を阿利※[#「咤−宀」、第3水準1−14−85]といひしが、長老は常々《つねづね》二人に対《むか》ひて、高きものは堕《お》ち、常なきものは尽き、生あれば死あり、会へるものは離るることあらむと諭《さと》しける。されど一家は常に富み栄えて別に忌《いま》はしきことにも遇《あ》はず、世を楽しく過ごし行きけるに、長老が諭しの
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