て、彼等のみが決して独占的の所有者ではない。吾々は彼等の思想が天下の壇場に於て討議されたことを知らない。況《いわ》んや吾々は彼等に比して〈敗〉北したことの記憶を持たない。然るに何の理由を以て、彼等は独り自説を強行するのであるか。
 彼等の吾々と異なる所は、唯《ただ》彼等が暴力を所有し吾々が之を所有せざることのみに在る。だが偶然にも暴力を所有することが、何故《なにゆえ》に自己のみの所信を敢行しうる根拠となるか。吾々に代わって社会の安全を保持する為《ため》に、一部少数のものは武器を持つことを許されその故に吾々は法規によって武器を持つことを禁止されている。然るに吾々が晏如《あんじょ》として眠れる間に武器を持つことその事の故のみで、吾々多数の意志は無の如《ごと》くに踏み付けられるならば、先ず公平なる暴力を出発点として、吾々の勝敗を決せしめるに如《し》くはない。
 或は人あっていうかも知れない、手段に於て非であろうとも、その目的の革新的なる事に於て必ずしも咎《とが》めるをえないと。然し彼等の目的が何であるかは、未《いま》だ曾《かつ》て吾々に明示されてはいない。何等か革新的であるかの印象を与えつつ
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