、而もその内容が不明なることが、ファッシズムが一部の人を牽引《けんいん》する秘訣《ひけつ》なのである。それ自身異なる目的を抱くものが、夫々《それぞれ》の希望をファッシズムに投影して、自己満足に陶酔しているのである。只管《ひたすら》に現状打破を望む性急|焦躁《しょうそう》のものが、往《ゆ》くべき方向の何たるかを弁ずるをえずして、曩《さき》にコンムュニズムに狂奔し今はファッシズムに傾倒す。冷静な理智の判断を忘れたる現代に特異の病弊である。

       四

 由来国軍は外敵に対して我が国土を防衛する任務を課せられて、国軍あるが為《た》めに国民は自ら武器を捨て、安んじて国土の防衛を托《たく》したのである。
 国軍はそれだけで負担し切れぬほど重大な使命を持っている。将兵化して政治家となるほどに、国軍は為《な》すべき任務を欠いでいるのであろうか。若《も》しその任務たる国防を全うするをえない事情にあるならば、真摯《しんし》にその旨を訴えるべき他の適当の方法がある筈《はず》である。日本国民はその言に耳を傾けないほど祖国に対して冷淡無関心ではない、若しそれが国防の充実と云う特殊の任務を逸脱して、一
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