、果《はて》は烈《はげ》しく独楽《こま》のやう、糸巻はコトコトとはずんで、指をはなれて引出の一方へ倒れると、鈴は又一つチリンと鳴つた。小《ちいさ》な胸には、大切なものを落したやうに、大袈裟《おおげさ》にハツとしたが、ふと心着《こころづ》くと、絹糸の端が有るか無きかに、指に挟《はさま》つて残つて居たので、うかゞひ、うかゞひ、密《そっ》と引くと、糸巻は、ひらりと面《おもて》を返して、糸はする/\と手繰《たぐ》られる。手繰りながら、斜《ななめ》に、寝転んだ上へ引き/\、頭《こうべ》をめぐらして、此方《こなた》へ寝返《ねがえり》を打つと、糸は左の手首から胸へかゝつて、宙に中《なか》だるみ為《し》て、目前《めさき》へ来たが、最《も》う眠いから何《なん》の色とも知らず。
自《みずか》ら其《それ》を結んだとも覚えぬに、宛然《さながら》糸を環《わ》にしたやうな、萌黄《もえぎ》の円《まる》いのが、ちら/\一《ひと》ツ見え出したが、見る/\紅《くれない》が交《まじ》つて、廻ると紫《むらさき》になつて、颯《さっ》と砕け、三《みっ》ツに成つたと見る内、八《や》ツになり、六《む》ツになり、散々《ちりぢり》にち
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