おじさんは、目を移して、
「景色もいいが、容子《ようす》がいいな。――提灯屋の親仁《おやじ》が見惚《みと》れたのを知ってるかい。
(その提灯を一つ、いくらです。)といったら、
(どうぞ早や、お持ちなされまして……お代はおついでの時、)……はどうだい。そのかわり、遠国他郷のおじさんに、売りものを新聞づつみ、紙づつみにしようともしないんだぜ。豈《あに》それ見惚れたりと言わざるを得んやだ、親仁。」
「おっしゃい。」
と銚子《ちょうし》のかわりをたしなめるような口振で、
「旅の人だか何だか、草鞋《わらじ》も穿《は》かないで、今時そんな、見たばかりで分りますか。それだし、この土地では、まだ半季勘定がございます。……でなくってもさ、当寺《おてら》へお参りをする時、ゆきかえり通るんですもの。あの提灯屋さん、母に手を曳《ひ》かれた時分から馴染《なじみ》です。……いやね、そんな空《から》お世辞をいって、沢山。……おじさんお参りをするのに極《きま》りが悪いもんだから、おだてごかしに、はぐらかして。」
「待った、待った。――お京さん――お米坊、お前さんのお母《っか》さんの名だ。」
「はじめまして伺います
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