地震だって壊せやしない。天を蔽《おお》い地に漲《みなぎ》る、といった処で、颶風《はやて》があれば消えるだろう。儚《はかな》いものではあるけれども――ああ、その儚さを一人で身に受けたのは初路さんだね。」
「ええ、ですから、ですから、おじさん、そのお慰めかたがた……今では時世がかわりました。供養のために、初路さんの手技《てわざ》を称《ほ》め賛《たた》えようと、それで、「糸塚」という記念の碑を。」
「…………」
「もう、出来かかっているんです。図取は新聞にも出ていました。台石の上へ、見事な白い石で大きな糸枠を据えるんです。刻んだ糸を巻いて、丹《に》で染めるんだっていうんですわ。」
「そこで、「友禅の碑」と、対《つい》するのか。しかし、いや、とにかく、悪い事ではない。場所は、位置は。」
「さあ、行って見ましょう。半分うえ出来ているようです。門を入って、直きの場所です。」
辻町は、あの、盂蘭盆の切籠燈《きりこ》に対する、寺の会釈を伝えて、お京が渠《かれ》に戯れた紅糸《べにいと》を思って、ものに手繰られるように、提灯とともにふらりと立った。
五
「おばけの……蜻蛉?……おじさん
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