《きま》りの貧のくるしみからだと思っていたよ。」
また、事実そうであった。
「まあ、そうですか、いうのもお可哀相。あの方、それは、おくらしに賃仕事をなすったでしょう。けれど、もと、千五百石のお邸《やしき》の女※[#くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]《じょうろう》さん。」
「おお、ざっとお姫様だ。ああ、惜しい事をした。あの晩一緒に死んでおけば、今頃はうまれかわって、小いろの一つも持った果報な男になったろう。……糸も、紅糸は聞いても床しい。」
「それどころじゃありません。その糸から起った事です。千五百石の女※[#くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]ですが、初路さん、お妾腹《めかけばら》だったんですって。それでも一粒種、いい月日の下《もと》に、生れなすったんですけれど、廃藩以来、ほどなく、お邸は退転、御両親も皆あの世。お部屋方の遠縁へ引取られなさいましたのが、いま、お話のありました箔屋なのです。時節がら、箔屋さんも暮しが安易《らく》でないために、工場《こうば》通いをなさいました。お邸育ちのお慰みから、縮緬《ちりめん》細工もお上手だし、お針は利きます。すぐ第
前へ
次へ
全61ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング