て、辻町糸七の外套《がいとう》の袖から半間《はんま》な面《つら》を出した昼間の提灯は、松風に颯《さっ》と誘われて、いま二葉三葉散りかかる、折からの緋葉《もみじ》も灯《とも》れず、ぽかぽかと暖い磴の小草《こぐさ》の日だまりに、あだ白けて、のびれば欠伸《あくび》、縮むと、嚔《くしゃみ》をしそうで可笑《おか》しい。
 辻町は、欠伸と嚔を綯《な》えたような掛声で、
「ああ、提灯。いや、どっこい。」
 と一段踏む。
「いや、どっこい。」
 お米が莞爾《にっこり》、
「ほほほ、そんな掛声が出るようでは、おじさん。」
「何、くたびれやしない。くたびれたといったって、こんな、提灯の一つぐらい。……もっとも持重りがしたり、邪魔になるようなら、ちょっと、ここいらの薄《すすき》の穂へ引掛《ひっか》けて置いても差支えはないんだがね。」
「それはね、誰も居ない、人通りの少い処だし、お寺ですもの。そこに置いといたって、人がどうもしはしませんけれど。……持ちましょうというのに持たさないで、おじさん、自分の手で…」
「自分の手で。」
「あんな、知らない顔をして、自分の手からお手向けなさりたいのでしょう。ここへ置いて行
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