よ。あとをカタカタと追って返して、
[#ここから3字下げ]
――それ、紅い糸を持って来た。縁結びに――白いのが好《よ》かったかしら、……あいては幻……
[#ここで字下げ終わり]
 と頬をかすられて、私はこの中段まで転げ落ちた。ちと大袈裟《おおげさ》だがね、遠くの暗い海の上で、稲妻がしていたよ。その夜、途中からえらい降りで。」……
[#ここから4字下げ]
……………………
……………………
[#ここで字下げ終わり]
 辻町は夕立を懐《おも》うごとく、しばらく息を沈めたが、やがて、ちょっと語調をかえて云った。
「お米坊、そんな、こんな、お母さんに聞いていたのかね。」
「ええ、お嫁に行ってから、あと……」
「そうだろうな、あの気象でも、極《きま》りどころは整然《ちゃん》としている。嫁入前の若い娘に、余り聞かせる事じゃないから。
 ――さて、問題の提灯だ。成程、その人に、切籠燈《きりこ》のかわりに供えると、思ったのはもっともだ。が、そんな、実は、しおらしいとか、心入れ、とかいう奇特なんじゃなかったよ。懺悔《ざんげ》をするがね、実は我ながら、とぼけていて、ひとりでおかしいくらいなんだよ。月夜に提
前へ 次へ
全61ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング