ぞに出向いた事のない奴《やつ》が、」
 辻町は提灯を押えながら、
「酒買い狸が途惑《とまどい》をしたように、燈籠をぶら下げて立っているんだ。
 いう事が捷早《すばや》いよ、お京さん、そう、のっけにやられたんじゃ、事実、親類へ供えに来たものにした処で、そうとはいえない。
[#ここから3字下げ]
――初路さんのお墓は――
[#ここで字下げ終わり]
 いかにも、若い、優しい、が、何だか、弱々とした、身を投げた女の名だけは、いつか聞いていた。
[#ここから3字下げ]
――お墓の場所は知っていますか――
[#ここで字下げ終わり]
 知るもんですか。お京さんが、崖で夜露に辷《すべ》る処へ、石ころ道が切立《きった》てで危いから、そんなにとぼついているんじゃ怪我をする。お寺へ預けて、昼間あらためて、お参りを、そうなさい、という。こっちはだね。日中《ひなか》のこのこ出られますか。何、志はそれで済むからこの石の上へ置いたなり帰ろうと、降参に及ぶとね、犬猫が踏んでも、きれいなお精霊《しょうりょう》が身震いをするだろう。――とにかく、お寺まで、と云って、お京さん、今度は片褄《かたづま》をきりりと端折《はしょ》
前へ 次へ
全61ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング