して定《じょう》に入《い》る。
「や、こいつア洒落《しゃれ》てら。」
と往来が讃《ほ》めて行《ゆ》く。
黒い毛氈《もうせん》の上に、明石《あかし》、珊瑚《さんご》、トンボの青玉が、こつこつと寂《さ》びた色で、古い物語を偲《しの》ばすもあれば、青毛布《あおげっと》の上に、指環《ゆびわ》、鎖、襟飾《えりかざり》、燦爛《さんらん》と光を放つ合成金の、新時代を語るもあり。……また合成銀と称《とな》えるのを、大阪で発明して銀煙草《ぎんぎせる》を並べて売る。
「諸君、二円五十銭じゃ言うたんじゃ、可《え》えか、諸君、熊手屋が。露店の売品の値価《ねだん》にしては、いささか高値《こうじき》じゃ思わるるじゃろうが、西洋の話じゃ、で、分るじゃろう。二円五十銭、可えか、諸君。」
と重なり合った人群集《ひとだかり》の中に、足許《あしもと》の溝の縁に、馬乗提灯《うまのりぢょうちん》を動き出しそうに据えたばかり。店も何も無いのが、額を仰向《あおむ》けにして、大口を開《あ》いて喋《しゃべ》る……この学生風な五ツ紋は商人《あきんど》ではなかった。
ここらへ顔出しをせねばならぬ、救世軍とか云える人物。
「そこでじ
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