くう》を掴《つか》んだ爪がある。
 霜風は蝋燭《ろうそく》をはたはたと揺《ゆす》る、遠洋と書いたその目標《めじるし》から、濛々《もうもう》と洋《わだつみ》の気が虚空《こくう》に被《かぶ》さる。
 里心が着くかして、寂《さみ》しく二人ばかり立った客が、あとしざりになって……やがて、はらはらと急いで散った。
 出刃を落した時、赫《かッ》と顔の色に赤味を帯びて、真鍮《しんちゅう》の鉈豆煙草《なたまめぎせる》の、真中《まんなか》をむずと握って、糸切歯で噛むがごとく、引啣《ひっくわ》えて、
「うむ、」
 と、なぜか呻《うな》る。
 処へ、ふわふわと橙色《だいだいいろ》が露《あら》われた。脂留《やにどめ》の例の技師で。
「どうですか、膃肭臍屋さん。」
「いや、」
 とただ言ったばかり、不愛想。
 技師は親しげに擦|寄《よ》って、
「昨夜は、飛んだ事でしたな……」
「お話になりません。」
「一体何の事ですか、」
「何《なに》やいうて、彼《か》やいうて、まるでお話しにならんのですが、誰が何を見違えたやら、突然《いきなり》しらべに来て、膃肭臍の中を捜すんですぞ、真白《まっしろ》な女の片腕があると言うて。
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