おくび》をするかと思うと、印半纏《しるしばんてん》の肩を聳《そび》やかして、のッと行《ゆ》く。新姐子《しんぞっこ》がばらばらと避《よ》けて通す。
 と嶮《けん》な目をちょっと見据えて、
「ああいう親方が火元になります。」と苦笑《にがわらい》。
 昔から大道店《だいどうみせ》に、酔払いは附いたもので、お職人親方|手合《てあい》の、そうしたのは有触《ありふ》れたが、長外套《なががいとう》に茶の中折《なかおれ》、髭《ひげ》の生えた立派なのが居る。
 辻に黒山を築いた、が北風《ならい》の通す、寒い背後《うしろ》から藪《やぶ》を押分けるように、杖《ステッキ》で背伸びをして、
「踊っとるは誰《だい》じゃ、何しとるかい。」
「へい、面白ずくに踊ってる[#「踊ってる」は底本では「踊つてる」]じゃござりません。唯今、鼻紙で切りました骸骨《がいこつ》を踊らせておりますんで、へい、」
「何じゃ、骸骨が、踊《おどり》を踊る。」
 どたどたと立合《たちあい》の背《うしろ》に凭懸《よりかか》って、
「手品か、うむ、手品を売りよるじゃな。」
「へい、八通《やとお》りばかり認《したた》めてござりやす、へい。」
「うむ
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