。……松崎は実は、うら少《わか》い娘の余り果敢《はか》なさに、亀井戸|詣《もうで》の帰途《かえるさ》、その界隈《かいわい》に、名誉の巫子《いちこ》を尋ねて、そのくちよせを聞いたのであった……霊の来《きた》った状《さま》は秘密だから言うまい。魂《たま》の上《あが》る時、巫子は、空《くう》を探って、何もない所から、弦《ゆんづる》にかかった三筋ばかりの、長い黒髪を、お稲の記念《かたみ》ぞとて授けたのを、とやせんとばかりで迷《まよい》の巷《ちまた》。
 黒髪は消えなかった。
[#地から1字上げ]大正二(一九一三)年五月



底本:「泉鏡花集成6」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年3月21日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第十五卷」岩波書店
   1940(昭和15)年9月20日発行
※誤植箇所の確認には底本の親本を用いました。
入力:門田裕志
校正:高柳典子
2007年2月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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