もり》のある趣に似たが、風情は勝る、花の香はその隈《くま》から、幽《かすか》に、行違《ゆきちが》う人を誘うて時めく。薫《かおり》を籠《こ》めて、藤、菖蒲《あやめ》、色の調う一枚|小袖《こそで》、長襦袢《ながじゅばん》。そのいずれも彩糸《いろいと》は使わないで、ひとえに浅みどりの柳の葉を、針で運んで縫ったように、姿を通して涼しさの靡《なび》くと同時に、袖にも褄にもすらすらと寂しの添った、痩《や》せぎすな美しい女《ひと》に、――今のを、ト言掛けると、婦人《おんな》は黙って頷《うなず》いた。
が、もう打頷く咽喉《のど》の影が、半襟の縫の薄紅梅《うすこうばい》に白く映る。……
あれ見よ。この美しい女《ひと》は、その膚《はだえ》、その簪《かんざし》、その指環《ゆびわ》の玉も、とする端々|透通《すきとお》って色に出る、心の影がほのめくらしい。
「ここだ、この音なんだよ。」
婦人《おんな》は同伴《つれ》の男にそう言われて、時に頷いたが、傍《かたわら》でこれを見た松崎と云う、絣《かすり》の羽織で、鳥打を被《かぶ》った男も、共に心に頷いたのである。
「成程これだろう。」
但し、松崎は、男女《なん
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