おう》して、帰洛《きらく》を品川へ送るのに、資治《やすはる》卿の装束《しょうぞく》が、藤色《ふじいろ》なる水干《すいかん》の裾《すそ》を曳《ひ》き、群鵆《むらちどり》を白く染出《そめい》だせる浮紋《うきもん》で、風折烏帽子《かざおりえぼし》に紫《むらさき》の懸緒《かけお》を着けたに負けない気で、此《この》大島守は、紺染《こんぞめ》の鎧直垂《よろいひたたれ》の下に、白き菊綴《きくとじ》なして、上には紫の陣羽織。胸をこはぜ掛《がけ》にて、後《うしろ》へ折開《おりひら》いた衣紋着《えもんつき》ぢや。小袖《こそで》と言ふのは、此れこそ見よがしで、嘗《かつ》て将軍家より拝領の、黄なる地《じ》の綾《あや》に、雲形《くもがた》を萌葱《もえぎ》で織出《おりだ》し、白糸《しろいと》を以て葵《あおい》の紋着《もんつき》。」
「うふ。」
と小法師《こほうし》が噴笑《ふきだ》した。
「何と御坊《ごぼう》。――資治卿が胴袖《どてら》に三尺《さんじゃく》もしめぬものを、大島守|其《そ》の装《なり》で、馬に騎《の》つて、資治卿の駕籠《かご》と、演戯《わざおぎ》がかりで向合《むかいあ》つて、どんなものだ、とニタリと
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