、躍《おど》つて駈《か》けた。
「小法師、あひかはらず悪戯《いたずら》ぢや。」
と兜《かぶと》のやうな額皺《ひたいじわ》の下に、恐《おそろ》しい目を光らしながら、山伏《やまぶし》は赤い鼻をひこ/\と笑つたが、
「拙道《せつどう》、煙草《たばこ》は不調法《ぶちょうほう》ぢや。然《さ》らば相伴《しょうばん》に腰兵糧《こしびょうろう》は使はうよ。」
と胡坐《あぐら》かいた片脛《かたずね》を、づかりと投出《なげだ》すと、両手で逆に取つて、上へ反《そら》せ、膝《ひざ》ぶしからボキリボキリ、ミシリとやる。
「うゝ、うゝ。」
「あつ。」
と、武士《さむらい》と屑屋は、思はず声を立てたのである。
見向きもしないで、山伏は挫折《へしお》つた其の己《おの》が片脛を鷲掴《わしづか》みに、片手で踵《きびす》が穿《は》いた板草鞋《いたわらじ》を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》り棄《す》てると、横銜《よこぐわ》へに、ばり/\と齧《かじ》る……
鮮血《なまち》の、唇を滴々《たらたら》と伝ふを視《み》て、武士《さむらい》と屑屋は一《ひと》のめりに突伏《つっぷ》した。
不思議な事には、
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