るどころか、人脚の流るる中を、美しいしぶきを立てるばかり、仲店前を逆らって御堂の路《みち》へ上るのである。
 また、誰が見ないまでも、本堂からは、門をうろ抜けの見透《みとおし》一筋、お宮様でないのがまだしも、鏡があると、歴然《ありあり》ともう映ろう。
「御迷惑?」
 と察したように低声《こごえ》で言ったのが、なお色めいたが、ちっと蛇目傘《じゃのめ》を傾けた。
 目隠しなんど除《と》れたかと、はっきりした心持で、
「迷惑どころじゃ……しかし穏《おだやか》ではありません。一人ものが随分通ります。」
 とやっと苦笑した。
「では、別ッこに……」と云うなり、拗《す》ねた風にするりと離れた。
 と思うと、袖を斜めに、ちょっと隠れた状《さま》に、一帆の方へ蛇目傘ながら細《ほっそ》りした背《せな》を見せて、そこの絵草紙屋の店を覗《なが》めた。けばけばしく彩った種々《いろいろ》の千代紙が、染《にじ》むがごとく雨に縺《もつ》れて、中でも紅《べに》が来て、女の瞼《まぶた》をほんのりとさせたのである。
 今度は、一帆の方がその傍《そば》へ寄るようにして、
「どっちへいらっしゃる。」
「私?……」
 と傘《か
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