らと起《おこ》り、介抱もせず、呼びも活《い》けで、故《わざ》と灯火《ともしび》を微《ほのか》にし、「かくては誰《た》が眼にも……」と北叟笑《ほくそゑ》みつゝ、忍《しのび》やかに立出《たちい》で、主人《あるじ》の閨《ねや》に走行《はしりゆ》きて、酔臥《ゑひふ》したるを揺覚《ゆりさ》まし、「お村殿には御用人何某と人目を忍ばれ候《さふらふ》[#「候」は底本では「侯」]」と欺《あざむ》きければ、短慮無謀の平素《ひごろ》を、酒に弥暴《いやあら》く、怒気烈火の如《ごと》く心頭に発して、岸破《がば》と蹶起《はねお》き、枕刀《まくらがたな》押取《おつと》りて、一文字に馳出《はせい》で、障子を蹴放《けはな》して驀地《まつしぐら》に躍込《おどりこ》めば、人畜《にんちく》相戯《あひたはむ》れて形《かた》の如き不体裁。前後の分別に遑無《いとまな》く、用人の素頭《すかうべ》、抜手《ぬくて》も見せず、ころりと落《おと》しぬ。
二
旗野の主人《あるじ》は血刀《ちがたな》提《ひつさ》げ、「やをれ婦人《をんな》、疾《と》く覚めよ」とお村の肋《あばら》を蹴返《けかへ》せしが、活《くわつ》の法《はふ》にや合
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