と両三日《りやうさんじつ》、早くも我に臣事《しんじ》して、犬は命令を聞くべくなれり。

     四

 水曜日は諸学校に授業あるに関《かゝは》らず、私塾|大抵《たいてい》は休暇なり。予は閑《かん》に乗じ、庭に出《い》でて彼《か》の竹藪に赴けり。然《しか》るに予《かね》てより斥候《せきこう》の用に充《あ》てむため馴《なら》し置《お》きたる犬の此時《このとき》折《をり》よく来《きた》りければ、彼《かれ》を真先に立たしめて予は大胆《だいたん》にも藪に入《い》れり。行《ゆ》くこと未《いま》だ幾干《いくばく》ならず、予に先むじて駈込《かけこ》みたる犬は奥深く進みて見えずなりしが、※[#「口+何」、第4水準2−3−88]呀《あなや》何事《なにごと》の起《おこ》りしぞ、乳虎《にうこ》一声《いつせい》高く吠えて藪中《さうちう》俄《にはか》に物騒《ものさわ》がし、其《その》響《ひゞき》に動揺せる満藪《まんさう》の竹葉《ちくえふ》相触《あひふ》れてざわ/\/\と音《おと》したり。予はひやりとして立停《たちど》まりぬ。稍《やゝ》ありて犬は奥より駈来《かけきた》り、予が立てる前を閃過《せんくわ》して藪の外《
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