なに、大丈夫《だいぢやうぶ》だと思《おも》つてござれば、些《ちつ》とも驚《おどろ》くことはない。こりやよし死《し》んでも生返《いきかへ》る。もし又《また》船《ふね》が危《あぶな》いと信《しん》じたらば、乘《の》らぬことでござるぞ。何《なん》でもあやふや[#「あやふや」に傍点]だと安心《あんしん》がならぬ、人《ひと》を恃《たの》むより神佛《しんぶつ》を信《しん》ずるより、自分《じぶん》を信仰《しんかう》なさるが一番《いちばん》ぢや。」
 船《ふね》の港《みなと》に着《つ》きけるまで懇《ねんごろ》に説聞《ときき》かして、此《この》殺身爲仁《さつしんゐじん》の高僧《かうそう》は、飄然《へうぜん》として其《その》名《な》も告《つ》げず立去《たちさ》りにけり。



底本:「鏡花全集 卷二」岩波書店
   1942(昭和17)年9月30日第1刷発行
   1973(昭和48)年12月3日第2刷発行
入力:土屋隆
校正:門田裕志
2005年10月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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