居《ゐ》られる。
又《また》死《し》んでも極樂《ごくらく》へ確《たしか》に行《ゆ》かれる身《み》ぢやと固《かた》く信《しん》じて居《ゐ》る者《もの》は、恁《かう》云《い》ふ時《とき》には驚《おどろ》かぬ。
まあ那樣事《そんなこと》は措《お》いて、其時《そのとき》船《ふね》の中《なか》で、些《ちつ》とも騷《さわ》がぬ、いやも頓《とん》と平氣《へいき》な人《ひと》が二人《ふたり》あつた。美《うつく》しい娘《むすめ》と可愛《かはい》らしい男《をとこ》の兒《こ》ぢや。※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、9−3]弟《きやうだい》と見《み》えてな、似《に》て居《ゐ》ました。
最初《さいしよ》から二人《ふたり》對坐《さしむかひ》で、人交《ひとまぜ》もせぬで何《なに》か睦《むつ》まじさうに話《はなし》をして居《ゐ》たが、皆《みんな》がわい/\言《い》つて立騷《たちさわ》ぐのを見《み》ようともせず、まるで別世界《べつせかい》に居《ゐ》るといふ顏色《かほつき》での。但《たゞ》金石間近《かないはまぢか》になつた時《とき》、甲板《かんぱん》の方《はう》に何《なに》か知《し》らん恐《おそろ》しい音《おと》がして、皆《みんな》が、きやツ!と叫《さけ》んだ時《とき》ばかり、少《すこ》し顏色《かほいろ》を變《か》へたぢや。別《べつ》に仔細《しさい》もなかつたと見《み》えて、其内《そのうち》靜《しづ》まつたが、※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、9−7]弟《きやうだい》は立《た》ちさうにもせず、まことに常《つね》の通《とほ》りに、澄《すま》して居《ゐ》たに因《よ》つて、餘《あま》り不思議《ふしぎ》に思《おも》うたから、其日《そのひ》難《なん》なく港《みなと》に着《つ》いて、※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、9−8]弟《きやうだい》が建場《たてば》の茶屋《ちやや》に腕車《くるま》を雇《やと》ひながら休《やす》んで居《ゐ》る處《ところ》へ行《い》つて、言葉《ことば》を懸《か》けて見《み》ようとしたが、其《その》子達《こだち》の氣高《けだか》さ!貴《たふと》さ! 思《おも》はず此《こ》の天窓《あたま》が下《さが》つたぢや。
そこで土間《どま》へ手《て》を支《つか》へて、「何《ど》ういふ御修行《ごしゆぎ
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