め》のほほ笑む如き、髪のさらさらしたる、枕にみだれかかりたる、それも違《たが》はぬに、胸に剣《つるぎ》をさへのせたまひたれば、亡《な》き母上のその時のさまに紛《まが》ふべくも見えずなむ、コハこの君《きみ》もみまかりしよとおもふいまはしさに、はや取除《とりの》けなむと、胸なるその守刀《まもりがたな》に手をかけて、つと引く、せつぱゆるみて、青き光|眼《まなこ》を射《い》たるほどこそあれ、いかなるはずみにか血汐《ちしお》さとほとばしりぬ。眼もくれたり。したしたとながれにじむをあなやと両の拳《こぶし》もてしかとおさへたれど、留《とど》まらで、たふたふと音するばかりぞ淋漓《りんり》としてながれつたへる、血汐《ちしお》のくれなゐ衣《きぬ》をそめつ。うつくしき人は寂《せき》として石像の如く静《しずか》なる鳩尾《みずおち》のしたよりしてやがて半身をひたし尽《つく》しぬ。おさへたるわが手には血の色つかぬに、燈《ともしび》にすかす指のなかの紅《くれない》なるは、人の血の染《そ》みたる色にはあらず、訝《いぶか》しく撫《な》で試《こころ》むる掌《たなそこ》のその血汐にはぬれもこそせね、こころづきて見定むれば、
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