がたな》を取出《とりだ》しつつ鞘《さや》ながら引《ひき》そばめ、雄々《おお》しき声にて、
「何が来てももう恐くはない。安心してお寝よ。」とのたまふ、たのもしき状《さま》よと思ひてひたとその胸にわが顔をつけたるが、ふと眼をさましぬ。残燈《ありあけ》暗く床柱《とこばしら》の黒うつややかにひかるあたり薄き紫の色《いろ》籠《こ》めて、香《こう》の薫《かおり》残りたり。枕をはづして顔をあげつ。顔に顔をもたせてゆるく閉《とじ》たまひたる眼《め》の睫毛《まつげ》かぞふるばかり、すやすやと寝入りてゐたまひぬ。ものいはむとおもふ心おくれて、しばし瞻《みまも》りしが、淋《さび》しさにたへねばひそかにその唇に指さきをふれて見ぬ。指はそれて唇には届かでなむ、あまりよくねむりたまへり。鼻をやつままむ眼をやおさむとまたつくづくと打《うち》まもりぬ。ふとその鼻頭《はなさき》をねらひて手をふれしに空《くう》を捻《ひね》りて、うつくしき人は雛《ひな》の如く顔の筋《すじ》ひとつゆるみもせざりき。またその眼のふちをおしたれど水晶のなかなるものの形を取らむとするやう、わが顔はそのおくれげのはしに頬をなでらるるまで近々《ちかぢ
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