なきことを考へぬ。しばらくして小提灯《こぢようちん》の火影《ほかげ》あかきが坂下より急ぎのぼりて彼方《かなた》に走るを見つ。ほどなく引返《ひつかえ》してわがひそみたる社《やしろ》の前に近づきし時は、一人ならず二人三人《ふたりみたり》連立《つれだ》ちて来《きた》りし感あり。
あたかもその立留《たちどま》りし折から、別なる跫音《あしおと》、また坂をのぼりてさきのものと落合《おちあ》ひたり。
「おいおい分らないか。」
「ふしぎだな、なんでもこの辺で見たといふものがあるんだが。」
とあとよりいひたるはわが家《いえ》につかひたる下男の声に似たるに、あはや出《い》でむとせしが、恐しきものの然《さ》はたばかりて、おびき出《いだ》すにやあらむと恐しさは一《ひと》しほ増しぬ。
「もう一度念のためだ、田圃《たんぼ》の方でも廻つて見よう、お前も頼む。」
「それでは。」といひて上下《うえした》にばらばらと分れて行《ゆ》く。
再び寂《せき》としたれば、ソと身うごきして、足をのべ、板めに手をかけて眼ばかりと思ふ顔少し差出《さしい》だして、外《と》の方《かた》をうかがふに、何ごともあらざりければ、やや落着《お
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