い懸《が》けず見ると、肩を並べて斉《ひと》しく手を合せてすらりと立った、その黒髪の花|唯《ただ》一輪、紅《くれない》なりけり月の光に。
高坂がその足許《あしもと》に平伏《ひれふ》したのは言うまでもなかった。
その時肩を落して、美女《たおやめ》が手を取ると、取られて膝をずらして縋着《すがりつ》いて、その帯のあたりに面《おもて》を上げたのを、月を浴びて※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]長《ろうた》けた、優しい顔で熟《じっ》と見て、少し頬《ほお》を傾けると、髪がそちらへはらはらとなるのを、密《そ》と押える手に、簪《かざし》を抜いて、戦《わなな》く医学生の襟《えり》に挟《はさ》んで、恍惚《うっとり》したが、瞳《ひとみ》が動き、
「ああ、お可懐《なつかし》い。思うお方《かた》の御病気はきっとそれで治《なお》ります。」
あわれ、高坂が緊乎《しっか》と留《と》めた手は徒《いたずら》に茎を掴《つか》んで、袂《たもと》は空に、美女ヶ原は咲満《さきみ》ちたまま、ゆらゆらと前へ出たように覚えて、人の姿は遠くなった。
立って追おうとすると、岩に牡丹《ぼたん》の咲重《さきかさな
前へ
次へ
全59ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング