の黒髪に挿しました。人の簪《かんざし》の花になっても、月影に色は真紅《しんく》だったです。
 母様《おっかさん》の御大病《ごたいびょう》、一刻も早くと、直《すぐ》に、美女ヶ原を後《あと》にしました
 引返す時は、苦《く》もなく、すらすらと下りられて、早や暁《あかつき》の鶏《とり》の声。
 嬉《うれ》しや人里も近いと思う、月が落ちて明方《あけがた》の闇を、向うから、洶々《どやどや》と四、五人|連《づれ》、松明《たいまつ》を挙《あ》げて近寄った。人可懐《ひとなつかし》くいそいそ寄ると、いずれも屈竟《くっきょう》な荒漢《あらおのこ》で。
 中《うち》に一人、見た事のある顔と、思い出した。黒婆《くろばば》が家に馬を繋いだ馬士《まご》で、その馬士、二人の姿を見ると、遁《に》がすなと突然《いきなり》、私を小脇に引抱《ひっかか》える、残った奴が三人四人で、ええ! という娘を手取足取《てとりあしとり》。
 何処《どこ》をどう、どの方角をどのくらい駈けたかまるで夢中です。
 やがて気が付くと、娘と二人で、大《おおき》な座敷の片隅に、馬士《まご》交《まじ》り七、八人に取巻かれて坐っていました。
 何百年か
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