、新しく建増《たてま》したと見えて、襖《ふすま》がない、白い床《ゆか》へ、月影が溌《ぱっ》と射した。両側の部屋は皆|陰々《いんいん》と灯《ともし》を置いて、鎮《しずま》り返った夜半《よなか》の事です。
 好《い》い月だこと、まあ、とそのまま手を取って床板を蹈んで出ると、小窓《こまど》が一つ。それにも障子《しょうじ》がないので、二人で覗《のぞ》くと、前の甍《いらか》は露が流れて、銀が溶けて走るよう。
 月は山の端《は》を放れて、半腹《はんぷく》は暗いが、真珠を頂いた峰は水が澄んだか明るいので、山は、と聞くと、医王山だと言いました。
 途端にくゎいと狐が鳴いたから、娘は緊乎《しっか》と私を抱く。その胸に額《ひたい》を当てて、私は我知らず、わっと泣いた。
 怖《こわ》くはないよ、否《いいえ》怖いのではないと言って、母親の病気の次第。
 こういう澄み渡った月に眺めて、その色の赤く輝く花を採って帰りたいと、始《はじめ》てこの人ならばと思って、打明《うちあ》けて言うと、暫《しばら》く黙って瞳《ひとみ》を据《す》えて、私の顔を見ていたが、月夜に色の真紅《しんく》な花――きっと探しましょうと言って、―
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