、戸室口《とむろぐち》から石を切出《きりだ》しますのを、皆《みんな》馬で運びますから、一人で五|疋《ひき》も曳《ひ》きますのでございますよ。」
「それではその麓から来たんだね、唯《たった》一人。……」
静《しずか》に歩《ほ》を移していた高坂は、更にまた女の顔を見た。
「はい、一人でございます、そしてこちらへ参りますまで、お姿を見ましたのは、貴方《あなた》ばかりでございますよ。」
いかにもという面色《おももち》して、
「私《わたし》もやっぱり、そうさ、半里ばかりも後《あと》だった、途中で年寄った樵夫《きこり》に逢《あ》って、路《みち》を聞いた外《ほか》にはお前さんきり。
どうして往《い》って還《かえ》るまで、人《ひと》ッ子《こ》一人《ひとり》いようとは思わなかった。」
この辺《あたり》唯《ただ》なだらかな蒼海原《あおうなばら》、沖へ出たような一面の草を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》しながら、
「や、ものを言っても一つ一つ谺《こだま》に響くぞ、寂《さび》しい処《ところ》へ、能《よ》くお前さん一人で来たね。」
女は乳《ち》の上へ右左、幅広く引掛《ひっか》けた桃
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