っすぐ》に前途《むこう》へ駈け出せ、曳《えい》、と言うて、板で打《ぶ》たれたと思った、私の臀《しり》をびたりと一つ。
濡れた団扇《うちわ》は骨ばかりに裂けました。
怪飛《けしと》んだようになって、蹌踉《よろ》けて土砂降《どしゃぶり》の中を飛出《とびだ》すと、くるりと合羽《かっぱ》に包まれて、見えるは脚ばかりじゃありませんか。
赤蛙《あかがえる》が化けたわ、化けたわと、親仁《おやじ》が呵々《からから》と笑ったですが、もう耳も聞えず真暗三宝《まっくらさんぼう》。何か黒山《くろやま》のような物に打付《ぶッつ》かって、斛斗《もんどり》を打って仰様《のけざま》に転ぶと、滝のような雨の中に、ひひんと馬の嘶《いなな》く声。
漸々《ようよう》人の手に扶《たす》け起《おこ》されると、合羽を解いてくれたのは、五十ばかりの肥った婆《ばあ》さん。馬士《まご》が一人|腕組《うでぐみ》をして突立《つッた》っていた。門《かど》の柳の翠《みどり》から、黒駒《くろこま》の背へ雫《しずく》が流れて、はや雲切《くもぎれ》がして、その柳の梢《こずえ》などは薄雲の底に蒼空《あおぞら》が動いています。
妙なものが降り込
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