なかご》、脚《あし》に脚絆《きゃはん》、身軽に扮装《いでた》ったが、艶麗《あでやか》な姿を眺めた。
 かなたは笠の下から見透《みすか》すが如くにして、
「これは失礼なことを申しました。お姿は些《ちっ》ともそうらしくはございませんが、結構な御経《おきょう》をお読みなさいますから、私《わたくし》は、あの、御出家ではございませんでも、御修行者《ごしゅぎょうじゃ》でいらっしゃいましょうと存じまして。」
 背広の服で、足拵《あしごしら》えして、帽《ぼう》を真深《まぶか》に、風呂敷包《ふろしきづつみ》を小さく西行背負《さいぎょうじょい》というのにしている。彼は名を光行《みつゆき》とて、医科大学の学生である。
 時に、妙法蓮華経薬草諭品《みょうほうれんげきょうやくそうゆほん》、第五偈《だいごげ》の半《なかば》を開いたのを左の掌《たなそこ》に捧《ささ》げていたが、右手《めて》に支《つ》いた力杖《ステッキ》を小脇に掻上《かいあ》げ、
「そりゃまあ、修行者は修行者だが、まだ全然《まるで》素人《しろうと》で、どうして御布施《ごふせ》を戴くようなものじゃない。
 読方《よみかた》だって、何だ、大概《たいがい》
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