れを復《なお》したい一心で、薬を探しに来たんですな。」
 高坂は少時《しばらく》黙った。
「こう言うと、何か、さも孝行の吹聴《ふいちょう》をするようで人聞《ひとぎき》が悪いですが、姉さん、貴女《あなた》ばかりだから話をする。
 今でこそ、立派な医者もあり、病院も出来たけれど、どうして城下が二里四方に開《ひら》けていたって、北国《ほくこく》の山の中、医者らしい医者もない。まあまあその頃、土地第一という先生まで匙《さじ》を投げてしまいました。打明けて、父が私たちに聞かせるわけのものじゃない。母様《おっかさん》は病気《きいきい》が悪いから、大人《おとな》しくしろよ、くらいにしてあったんですが、何となく、人の出入《ではいり》、家《うち》の者の起居挙動《たちいふるまい》、大病というのは知れる。
 それにその名医というのが、五十|恰好《かっこう》で、天窓《あたま》の兀《は》げたくせに髪の黒い、色の白い、ぞろりとした優形《やさがた》な親仁《おやじ》で、脈を取るにも、蛇《じゃ》の目《め》の傘《かさ》を差すにも、小指を反《そら》して、三本の指で、横笛を吹くか、女郎《じょろう》が煙管《きせる》を持つような
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