っちゃ》ったりする処《ところ》ではないのでございます。まあ、難有《ありがた》いお寺の庭、お宮の境内《けいだい》、上《うえ》つ方《がた》の御門《ごもん》の内のような、歩けば石一つありませんでも、何となく謹《つつし》みませんとなりませんばかりなのでございます。そして貴方《あなた》は、美女ヶ原にお心覚えの草があって、其処《そこ》までお越し遊ばすに、二日も三日もお懸《かか》りなさらねばなりませんような気がすると仰有《おっしゃ》いますが、何時《いつ》か一度お上《のぼ》り遊ばした事がございますか。」
「一度あるです。」
「まあ。」
「確《たしか》に美女ヶ原というそれでしょうな、何でも躑躅《つつじ》や椿《つばき》、菊も藤も、原《はら》一面に咲いていたと覚えています。けれども土地の名どころじゃない、方角さえ、何処《どこ》が何だか全然《まるで》夢中。
 今だってやっぱり、私は同一《おなじ》この国の者なんですが、その時は何為《なぜ》か家を出て一月|余《あまり》、山へ入って、かれこれ、何でも生れてから死ぬまでの半分は※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]
前へ 次へ
全59ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング