にようばう》奧《おく》より出《い》で、坐《ざ》して慇懃《いんぎん》に挨拶《あいさつ》する。南無三《なむさん》聞《きこ》えたかとぎよつとする。爰《こゝ》に於《おい》てか北八《きたはち》大膽《だいたん》に、おかみさん彼《あ》の茶棚《ちやだな》はいくら。皆《みな》寒竹《かんちく》でございます、はい、お品《しな》が宜《よろ》しうございます、五圓六十錢《ごゑんろくじつせん》に願《ねが》ひたう存《ぞん》じます。兩人《りやうにん》顏《かほ》を見合《みあは》せて思入《おもひいれ》あり。北八《きたはち》心得《こゝろえ》たる顏《かほ》はすれども、さすがにどぎまぎして言《い》はむと欲《ほつ》する處《ところ》を知《し》らず、おかみさん歸《かへり》にするよ。唯々《はい/\》。お邪魔《じやま》でしたと兄《にい》さんは旨《うま》いものなり。虎口《ここう》を免《のが》れたる顏色《かほつき》の、何《ど》うだ、北八《きたはち》恐入《おそれい》つたか。餘計《よけい》な口《くち》を利《き》くもんぢやないよ。
 思《おも》ひ懸《が》けず又《また》露地《ろぢ》の口《くち》に、抱餘《かゝへあま》る松《まつ》の大木《たいぼく》を筒切
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