ける。黄菊《きぎく》を活《い》けたる床《とこ》の間《ま》の見透《みとほ》さるゝ書齋《しよさい》に聲《こゑ》あり、居《ゐ》る/\と。
やがて着流《きなが》し懷手《ふところで》にて、冷《つめた》さうな縁側《えんがは》に立顯《たちあらは》れ、莞爾《につこ》として曰《いは》く、何處《どこ》へ。あゝ北八《きたはち》の野郎《やらう》とそこいらまで。まあ、お入《はひ》り。いづれ、と言《い》つて分《わか》れ、大乘寺《だいじようじ》の坂《さか》を上《のぼ》り、駒込《こまごめ》に出《い》づ。
料理屋《れうりや》萬金《まんきん》の前《まへ》を左《ひだり》へ折《を》れて眞直《まつすぐ》に、追分《おひわけ》を右《みぎ》に見《み》て、むかうへ千駄木《せんだぎ》に至《いた》る。
路《みち》に門《もん》あり、門内《もんない》兩側《りやうがは》に小松《こまつ》をならべ植《う》ゑて、奧深《おくふか》く住《すま》へる家《いへ》なり。主人《あるじ》は、巣鴨《すがも》邊《へん》の學校《がくかう》の教授《けうじゆ》にて知《し》つた人《ひと》。北八《きたはち》を顧《かへり》みて、日曜《にちえう》でないから留守《るす》だけれど
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