か》くれば、何《なに》か心得《こゝろえ》たる樣子《やうす》にて同行《どうかう》の北八《きたはち》は腕組《うでぐみ》をして少時《しばらく》默《だま》る。
 氷川神社《ひかはじんじや》を石段《いしだん》の下《した》にて拜《をが》み、此宮《このみや》と植物園《しよくぶつゑん》の竹藪《たけやぶ》との間《あひだ》の坂《さか》を上《のぼ》りて原町《はらまち》へ懸《かゝ》れり。路《みち》の彼方《あなた》に名代《なだい》の護謨《ごむ》製造所《せいざうしよ》のあるあり。職人《しよくにん》眞黒《まつくろ》になつて働《はたら》く。護謨《ごむ》の匂《にほひ》面《おもて》を打《う》つ。通《とほ》り拔《ぬ》ければ木犀《もくせい》の薫《かをり》高《たか》き横町《よこちやう》なり。これより白山《はくさん》の裏《うら》に出《い》でて、天外君《てんぐわいくん》の竹垣《たけがき》の前《まへ》に至《いた》るまでは我々《われ/\》之《これ》を間道《かんだう》と稱《とな》へて、夜《よる》は犬《いぬ》の吠《ほ》ゆる難處《なんしよ》なり。件《くだん》の垣根《かきね》を差覗《さしのぞ》きて、をぢさん居《ゐ》るか、と聲《こゑ》を懸《か》
前へ 次へ
全23ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング