ツを鎧《よろ》へる手《て》に、高々《たか/″\》と抱《いだ》いて、大童《おほわらは》。それ鼬《いたち》の道《みち》を切《き》る時《とき》押《お》して進《すゝ》めば禍《わざはひ》あり、山《やま》に櫛《くし》の落《お》ちたる時《とき》、之《これ》を避《さ》けざれば身《み》を損《そこな》ふ。兩頭《りやうとう》の蛇《へび》を見《み》たるものは死《し》し、路《みち》に小兒《こども》を抱《だ》いた亭主《ていしゆ》を見《み》れば、壽《ことぶき》長《なが》からずとしてある也《なり》。ああ情《なさけ》ない目《め》を見《み》せられる、鶴龜々々《つるかめ/\》と北八《きたはち》と共《とも》に寒《さむ》くなる。人《ひと》の難儀《なんぎ》も構《かま》はばこそ、瓢箪棚《へうたんだな》の下《した》に陣取《ぢんど》りて、坊《ばう》やは何處《どこ》だ、母《かあ》ちやんには、見《み》えないよう、あばよといへ、ほら此處《こゝ》だ、ほらほらはゝはゝゝおほゝゝと高笑《たかわらひ》。弓矢八幡《ゆみやはちまん》もう堪《たま》らぬ。よい/\の、犬《いぬ》の、婆《ばゞ》の、金時計《きんどけい》の、淺葱《あさぎ》の褌《ふんどし》の、其上《そのうへ》に、子抱《こかゝへ》の亭主《ていしゆ》と來《き》た日《ひ》には、こりや何時《いつ》までも見《み》せられたら、目《め》が眩《くら》まうも知《し》れぬぞと、あたふた百花園《ひやくくわゑん》を遁《に》げて出《で》る。
 白髯《しらひげ》の土手《どて》へ上《あが》るが疾《はや》いか、さあ助《たす》からぬぞ。二人乘《ににんのり》、小官員《こくわんゐん》と見《み》えた御夫婦《ごふうふ》が合乘《あひのり》也《なり》。ソレを猜《そね》みは仕《つかまつ》らじ。妬《や》きはいたさじ、何《なん》とも申《まを》さじ。然《さ》りながら、然《さ》りながら、同一《おなじ》く子持《こもち》でこれが又《また》、野郎《やらう》が膝《ひざ》にぞ抱《だ》いたりける。
 わツといつて駈《か》け拔《ぬ》けて、後《あと》をも見《み》ずに五六町《ごろくちやう》、彌次《やじ》さん、北八《きたはち》、と顏《かほ》を見合《みあ》はせ、互《たがひ》に無事《ぶじ》を祝《しゆく》し合《あ》ひ、まあ、ともかくも橋《はし》を越《こ》さう、腹《はら》も丁度《ちやうど》北山《きたやま》だ、筑波《つくば》おろしも寒《さむ》うなつたと、急足《い
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