けだ》して行《ゆ》きなすつたよ。……へい、えゝ、お一人《ひとり》。――他《ほか》にや其《そ》の時《とき》お友達《ともだち》は誰《だれ》も居《ゐ》ずさ。――變《へん》に陰氣《いんき》で不氣味《ぶきみ》な晩《ばん》でございました。ちやうど來《き》なすつた時《とき》、目白《めじろ》の九《こゝの》つを聞《き》きましたが、いつもの八《や》つころほど寂寞《ひつそり》して、びゆう/\風《かぜ》ばかりさ、おかみさん。」
 せめても、此《これ》だけを心遣《こゝろや》りに、女房《にようばう》は、小兒《こども》たちに、まだ晩《ばん》の御飯《ごはん》にもしなかつたので、坂《さか》を駈《か》け上《あが》るやうにして、急《いそ》いで行願寺内《ぎやうぐわんじない》へ歸《かへ》ると、路地口《ろぢぐち》に、四《よつ》つになる女《をんな》の兒《こ》と、五《いつ》つの男《をとこ》の兒《こ》と、廂合《ひあはひ》の星《ほし》の影《かげ》に立《た》つて居《ゐ》た。
 顏《かほ》を見《み》るなり、女房《にようばう》が、
「父《とう》さんは歸《かへ》つたかい。」
 と笑顏《ゑがほ》して、いそ/\して、優《やさ》しく云《い》つた。――
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