さを》なんぞ……鈎《はり》も絲《いと》も忍《しの》ばしては出《で》なかつたが――それは女房《にようばう》が頻《しきり》に殺生《せつしやう》を留《と》める處《ところ》から、つい面倒《めんだう》さに、近所《きんじよ》の車屋《くるまや》、床屋《とこや》などに預《あづ》けて置《お》いて、そこから内證《ないしよう》で支度《したく》して、道具《だうぐ》を持《も》つて出掛《でか》ける事《こと》も、女房《にようばう》は薄々《うす/\》知《し》つて居《ゐ》たのである。
處《ところ》が、一夜《いちや》あけて、晝《ひる》に成《な》つても歸《かへ》らない。不斷《ふだん》そんなしだらでない岩《いは》さんだけに、女房《にようばう》は人一倍《ひといちばい》心配《しんぱい》し出《だ》した。
さあ、氣《き》に成《な》ると心配《しんぱい》は胸《むね》へ瀧《たき》の落《お》ちるやうで、――帶《おび》引緊《ひきし》めて夫《をつと》の……といふ急《せ》き心《ごころ》で、昨夜《ゆうべ》待《ま》ち明《あか》した寢《ね》みだれ髮《がみ》を、黄楊《つげ》の鬢櫛《びんぐし》で掻《か》き上《あ》げながら、その大勝《だいかつ》のうちはも
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