という、三拍子も揃《そろ》ったのが競争をいたしますのに、私のような腕車には、それこそお茶人か、よっぽど後生のよいお客でなければ、とても乗ってはくれませんで、稼ぐに追い着く貧乏なしとはいいまするが、どうしていくら稼いでもその日を越すことができにくうござりますから、自然|装《なり》なんぞも構うことはできませんので、つい、巡査《おまわり》さんに、はい、お手数を懸《か》けるようにもなりまする」
いと長々しき繰り言をまだるしとも思わで聞きたる壮佼は一方《ひとかた》ならず心を動かし、
「爺さん、いやたあ謂われねえ、むむ、もっともだ。聞きゃ一人|息子《むすこ》が兵隊になってるというじゃねえか、おおかた戦争にも出るんだろう、そんなことなら黙っていないで、どしどし言い籠《こ》めて隙《ひま》あ潰《つぶ》さした埋め合わせに、酒代《さかて》でもふんだくってやればいいに」
「ええ、めっそうな、しかし申しわけのためばかりに、そのことも申しましたなれど、いっこうお肯《き》き入れがござりませんので」
壮佼はますます憤りひとしお憐《あわ》れみて、
「なんという木念人《ぼくねんじん》だろう、因業な寒鴉め、といったとこ
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