。)
学円 (沈着に時計を透かして)二時三分。
晃 むむ、夜《よ》ごとに見れば星でも了《わか》る……ちょうど丑満《うしみつ》……そうだろう。(と昂然《こうぜん》として鐘を凝視し)山沢、僕はこの鐘を搗《つ》くまいと思う。どうだ。
学円 (沈思の後)うむ、打つな、お百合さんのために、打つな。
晃 (鎌を上げ、はた、と切る。どうと撞木《しゅもく》落つ。)
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途端にもの凄《すさまじ》き響きあり。――地震だ。――山鳴《やまなり》だ。――夜叉ヶ池の上を見い。夜叉ヶ池の上を見い。夜叉ヶ池の上を見い。真暗《まっくら》な雲が出た、――と叫び呼《よば》わる程こそあれ、閃電《せんでん》来り、瞬く間も歇《や》まず。衆は立つ足もなくあわて惑う、牛あれて一|蹴《け》りに駈《か》け散らして飛び行《ゆ》く。
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鉱蔵 鐘を、鐘を――
嘉伝次 助けて下され、鐘を撞《つ》いて下されのう。
宅膳 救わせたまえ。助けたまえ。
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と逃げまわりつつ、絶叫す。天地|晦冥《かいめい》。よろぼい上るもの二三人石段に這《は》い
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